39歳の備忘録的日記

39歳の男の思ったこと感じたこと

九州地方のある場所について

20代前半にリゾートトラストを辞めた後に有給を使って友人と春先に九州まで旅行に行ったことがある。

若い頃特有の貧乏旅行で、東京から深夜バスでまず神戸に行った。九州という、漠然とした目的地はあったものの、途中で何をする、何処に行くというのは全く決めておらず、まさに行き当たりばったりの旅行だった。

神戸には午前6時ごろ着いて、早朝の神戸を二人で楽しんだ。なんとなく歩いてる間に山に続くような道に入り、舗装されていない山道を二人で登った。登る準備など当然していなかったので、おれたちはすぐに汗をかきバテ始めた。山道の険しさもあったが、旅行の大きな荷物を背負って歩くのはなかなかこたえた。暫く行くと、人が住んでいたであろう廃屋があった。昔の木造建築の家で、朽ち果てて中まで見えた。梁に何故かすずらんテープがぶら下がっており、その先は輪っかが作られていた。それが風でゆらゆらと揺れていて昼間なのになんだか不気味だなと感じた。また暫く歩くと、少し開けた場所に着いた。そこには大きな桜の木があり無数の桜の花びらが絶え間なく、ひらひらと降り注ぎ、桜吹雪を表していた。木が大きかったため、途切れることなく花びらが舞い、幻想的な光景を目にすることができた。

引き返して同じ道を歩くと、先ほどの廃屋に辿り着いた。近くに桜の木は無かったが、不思議なことにさっきの桜の花びらだろうか、ここにもひらひらと舞っていて、謎のテープと花吹雪のなんとも言えないコラボレーションを見ることができた。その山についてはもう、とうの昔に記憶の彼方にあり、山の名前や位置すら思い出せないが、あの光景は今でもはっきりと覚えている。

 

神戸から西に進路を取り、本来の目的地である九州の福岡に上陸した。友人は元々ここの出身であり、そしておれも幼い頃に何度か福岡にも行ったことがあり、二人にとっても思い入れのある土地だった。今だったら中洲辺りで遊びたいぐらいだが、若かったおれたちは勇気が無く、冷やかし程度に周囲を散策して、焼き鳥屋で酒を飲んで健全に福岡の夜を満喫したのだった。

 

その後はさあ、何処へ行こうとなったのだか、おれが子どもの頃に行った温泉地に行ってみようということになった。幸い、福岡からも近くバスで2時間弱というアクセスの良さも手伝ってすんなり目的地は決まった。バスを昼前に乗り、目的地に着いたのは13時ぐらいだっただろうか。やはりあてもなくぶらぶらしつつ、適当に入った料理屋のとり天がすごく美味しかったのを覚えている。

宿を探しつつ、街を散策していると少し大きな公園があり、どうやら祭りの準備をしているようだった。小規模な露店と提灯などが西陽に照らされ、準備を手伝う子ども達も楽しそうで田舎の古き良き光景がそこにあった。

 

幼き日にこの地で大雨に降られ、山中のペンションで雨宿りをさせてもらったことがある。ペンションのオーナーはとても優しく、客でもないおれたち家族を温かく迎えてくれた。そんな思い出があったため、そのペンションに行きたいと友達につげ、また歩き出した。と言っても、ペンションの名前はおろか、場所すらわからない。ただ山中にあるというのと、建物の外観だけは覚えていた。またしても街中から、山に入るような道があり、なんとなく登ると道中にそのペンションを発見した。すごい確率だなと驚きつつも、もうそのペンションは廃屋になっており、森の中にひっそりと佇んでいた。

そのペンションを少し超えたあたりで、ホステルがあった。漫画喫茶などで寝泊まりしていたので、たまには足を伸ばしてゆっくり寝たかったのだ。今夜の宿はそこに決め、飛び込みでチェックイン。バイカー達が集まる場所らしく、飛び込みにも優しく対応してくれた。荷物を置き、夜の温泉地に繰り出す。山道の往復は厳しそうと予想したが、いかんせんこの周りには食べるところがなかった。またしても、小料理屋とスナックを足して二で割ったような店に入り、郷土料理とビールを嗜む。帰る日は決めていなかったが、なんとなく今夜が旅の最後という空気もあり、しっぽりと夜を楽しんだ。

酒に酔った身体を引きづりつつ、先程の山道をまた歩く。山道は真っ暗で一人なら心細いこと、間違いない。そんなこんなで、ホステルに着くと、ロビーではオーナーと客が集まり談話していた。君たちもどうだいと言われ、なんとなくその酒盛りに参加する。初めてのことだったが、まあまあ楽しい時間を過ごした。さらに酒が回ったおれたちはホステルの温泉に向かい、少しでも酒を落とそうとした。友人はもうかなり酔っており、眠い眠いとひたすら繰り返す。風流な温泉を楽しんだ後はいよいよ寝るだけ。寝室は二段ベッドの相部屋なのだが、おれ以外はぐーぐーと寝息を立てて寝ているようだ。

おれはなんとなく、最後の夜だ。ここですぐに寝たら勿体無いなと思い、寝室の窓から何も無い真っ暗な向こうの山をぼーっと見ていた。旅の思い出に浸りつつ、山を見ていると、山の向こうが光っていた。とても眩しい光が山の向こうから漏れているような。何かやっているのかと思い、少し窓を開けると笛の音と太鼓の音がうっすら聞こえる。こんな夜遅くまで、山の中?で祭りをしているなんて…地域の奇祭の一つかもなと思いつつ、心地よい風と少し大きくなって聞こえる祭囃子に旅の思い出を重ねて、眠りについた。

次の日の出発の時、オーナーに聞いてみた。「あの山の向こうのお祭りは賑やかでしたね。夜遅くまでやっているようでしたが、なんのお祭りなんですか?」 オーナーは首を横に振り、あの山の向こうは何もありませんし、祭りなんてやっていませんでしたよ。酔っ払って気のせいでしょうと。いやそんなことは無い。人工的な光とどんどんと聞こえた太鼓の音は決して気のせいでは無いのだ。山での怪異は天狗の仕業と何処かで聞いたことがある。この地にもそう言った伝説があるのか。家に帰ったあと、あらためて地図を見てもやはり光と音の方角には山しか無く家すら無い森林地帯が続いていた。

 

と、特にオチもない少し不思議な話と若かりし頃の旅のお話。先日、その友人と会ったので思い出しながら書いてみた。少しずつ読んでいる不気味系な小説のタイトルから拝借して…

世の中不思議なことってあるもんですね。